晩夏の瀬戸内海、砂浜独占キャンプ、そして海ホタル。(後編)
島に降りたつと・・・。
誰もいない。店もない。静かな漁村といった感じだ。
いざ、南西側の海岸へめがけて出発だ。
地図で見るとわかるのだが、本来、島の西側へのアクセスは、
豊浦地区から南へ伸びる道で、大浦地区へ向かい、そこから西に向かうという方法だ。
自転車ならそういうルートで考えていたが、
もし自転車がなければ、金風呂地区から南下して山を越える細い道があるようなので、それで行こうと思っていた。
今回は自転車をあきらめ、金風呂地区から南下していくルートだ。
道は思ったより狭く、車は入れない。
そんなところにも、集落があり、家がたくさん立っているわけだから、引っ越しは大変だろうなと思う。
時折、原付やフォークリフトとすれ違う。
通り道にあった床屋のおっちゃんからは、僕らが大荷物を抱え、山を越えていくなど信じられんと笑われ、
さらに追い打ちをかけるように、「この先は土砂崩れで行けないと思うけどなぁ」と。
「迂回すれば、大丈夫だろうけど、はっはっはっ」と素敵な励ましを頂き、俄然、闘志に火が灯る(笑)
おじちゃんに別れを告げ、いざ南へ。道は集落を抜けて、山の中の細い道へ。横幅2mにも満たない舗装された道だ。
蒸すような暑さの中で、テント、食料、調味料、調理器具、釣り道具、シュノーケル&足ひれ、銛など、衣食住の持ち物に加え、遊び道具満載の重たいザックと、さらに、たくさんのビールと氷を詰め込んだサーモスのソフトクーラーBOXを担ぎながらの登りだから、容赦なく汗が吹き出してくる。
しかも、休憩でもしようと立ち止まった瞬間、デカい蚊がたかってくるから、たまったもんじゃない(笑)
薄暗い森の中の道で、聞こえるのは虫の声と自分の息遣いだけ。
樹々にからみつく植物、もわっとした湿気と緑の匂い、時折みかける巨大なキノコ、
生ける物の力強さを肌で感じる。
そんなこんなで登ること、20分くらいで、急な登りは終わり、ゆるやかな道に変わった。
森の回廊を抜けると、道も明るくなり、木々の向こうに海が、さらにその先にはたくさんの島々が見える。
この景色が見れただけでも、非日常の時間を過ごしている瞬間を体で感じ、嬉しくなってくる。
20分ほど進んだところで、途中、下に降りれそうな細い横道を発見。
そろそろ目指している海岸あたりだろうと見当をつけ、横道へ進む。
このあたりは完全な山道だ。
顔にはりついたクモの巣を取り払いながら、前へ進む。
下にいくにつれて、「ざざーーっ」とゆらめくような優しい波の音が聞こえる。
岩場にあたる「ざぶーん」というような激しい波音ではない。
森を抜けると、眼中に広がった広大なビーチ。
「すげーーーーーーーーーー!!」「うぉ〜〜〜〜〜〜!」
みな子供に戻ったかのような思い思いの表現で、この素晴らしい光景に賞賛を送っている。
完全なるプライベートビーチが広がっていた。
重たいザックを置いて、服も靴もぬいで、海に飛び込む僕ら(笑)
ひとしきりはしゃいだ後は、クーラーBOXからキンキンに冷えたプレミアムモルツで乾杯だ。
CMに出てきそうな「ごくっ、ごくっ」という喉を鳴らす音が、波の音に混じる。
言葉にならない達成感・・・。
今日という日に乾杯だ。
それからテントを設営した後は、磯場をつたえ歩き、島冒険をしたり、
銛をもって、海で泳いだり、釣りしたり、流木集めたり。
各々が自由に、ゆったりした島時間を満喫している。
ただ、海に潜って思ったのは、魚がとても少なかった。
砂地エリアで見かけたのは、1匹のメゴチと1群のボラのみ。
岩場エリアはカラフルなキュウセン、クサフグばかり。
毎年、泳いでいる伊豆あたりに比べると、数も少なかった。
異常気象のせいだろうか・・・。
水温が異常に温かい。
本当はキスの天ぷらでもやりたかったが、砂地での投げ釣りをあきらめ、
小さな堤防からイカ狙いのエギング、オキアミを餌にした五目釣りを試みるが、釣れたのはクサフグ1匹のみ。
完全に食料調達失敗。こんなはずじゃなかったのに・・・(笑)
(昨年も、一昨年も魚パーティーしたのに・・・)
夕方。
キャンプ地の砂浜に戻り夕飯の支度開始。
集めた流木で焚き火をし、
ご飯を炊いて、汁物をつくる。
汁物には、磯場で採取したカメノテ。
カメノテは見た目のグロテスクさからは想像できない、ピンク色の身をもっており、意外と美味い。
おかずの種類は少なかったが、満足の夕飯だった。
外で食べる、ただそれだけだが、それがいいのだ。
何を食べるかよりも、誰と食べるか、どこで食べるかのほうが、却って心に残ることが多い。
食後、最後の悪あがきと、目の前の海岸から釣りをしてみるものの、
フグの猛攻にあい、瞬時にエサがなくなるの繰り返しで、すぐに断念。
その後は焚き火の周りで、お酒を飲みながら、まったりとした時間を味わう。
なまぬるい潮風が心地よい。
昨晩はずっと車移動で、皆あまり睡眠も取れなかったせいか、焚き火の周りでうつら、うつらしている。
ぼんやり、頭上の半月を眺める。
台風が近づいているせいか、雲の動きが速い。
ふと、その時、視界の端っこにある海が青く光ったような気がした。
けど、そちらを見るが、真っ黒い海が広がるばかり。
気のせいかと思い、視線を焚き火に戻そうとした時、海辺のある一ヶ所がぼわーっと青白く光った。
「んんっ??」
海ホタルだ。
高校の頃、生物の授業で海ホタルを見たことがあるから、すぐにわかった。
陸にいるホタルの光は黄色だが、海ホタルの光は青白い。
すくっと立ち上がり、5m先の海辺で目を凝らすと、
打ち寄せる波の中で、時折、小さく青白く光るのが見える。
手で掬ってみると、やはり海ホタル。
ミジンコのような形で、大きさは2mmほどだろうか。
「海ホタルだよ」と、眠りこけている2人に声をかけると、
2人とも心無しか嬉しそうだ。
海辺で足をつかってバシャバシャやっていると、その部分だけ青白い閃光が煌めく。
みな、声にならない声を発し、やたらテンション高い(笑)
だんだん気持ちが昂ってきて、3人とも着ていた服を脱いで、海に飛び込む。
月夜の下で入る海は格別だと思う。
これは体験した者にしかわからない感覚だろうと思う。
裸足で捉える砂も、なんとも優しい感触。
海の中で手足を動かすと、その部分が帯状に青白く光る。
やがて、その数は徐々に増えてきて、水中メガネをつけて、海に潜ると、
海の中には宇宙が広がっていた。
あれは、本当に宇宙空間だった。
海の中に広がる、無数の星の煌めきは、夢のようだった。
遥か遠い昔に見たことがあるような、心がざわつく既視感。
まるで、青白いオーラを発しているかのように、
たくさんの光が僕の体を包んだ。
海ホタルだけではない、波全体が青白く光っている。
夜光虫だ。
信じられない、海ホタルと夜光虫の競演だ。
人工的な光が遮断されたこの島の一角で、
月光が照らす海の中で、特別な体験をしていることに、
言葉にならない深い感動を覚えた。
海の中で泳ぎながら思った。
今日、見た景色は一生忘れないだろうって。
こんな貴重な体験が出来たことに、感謝した。
海からあがり、焚き火で暖まり、僕らはそれぞれのテントで眠りについた。
翌朝、台風の影響で、海の表情は一変していた。
なぐりつける暴風雨で、テントはバタバタと音をたて、タープは何度立て直しても倒れてしまう。
台風による船が欠航の恐れがあったので、撤収を決め、僕らは早々に島を後にした。
島で2泊の予定が、1泊になったことは残念だったが、すべての出来事には意味がある。
この後、東京に帰れば良かったものの、思わぬ出来心から、瀬戸大橋を渡り、香川でうどんを食べたり、淡路島に泊まったことで、台風に巻き込まれ新たなドラマが生まれたりと、とても心に残る島キャンだった。